タイの表面処理業界事情調査の旅

「日本鍍金新報」編集長 梶山英樹

タイのめっき事情レポート(1)

2015.5.10

この度、めっき業界の海外進出の現状と問題を調査するため、3月24日から1週間、ASEANのハブとしての成長が期待される国で、日本からの進出、連携の筆頭格で成長著しいタイの表面処理業界を訪問調査してきたレポートを数回に分けて報告する。また、この調査旅行に際し奥野製薬工業の奥野社長に何から何まで大変お世話になり、感謝申し上げる。

上空からの富士山

現在タイはASEANの部品供給拠点として、確固たる地位を築こうとしている。
 タイは1960年代の早くから日産、トヨタ、いすゞなどの主要メーカーが進出した事により、自動車産業を中心とした産業集積を図り、裾野産業の発展に取り組んできた。
 その後1990年代に入ると市場の拡大とともに、自動車産業においては部品輸入関税の引き下げなど、保護策から一転して、一部自由化へと政策を転換し、高い経済成長率を生み、自動車のみならず電気、電子部品等、日本の中小企業の進出も裾野産業の発展を後押しすることとなった。
 しかし、自動車分野はもはや競合も多く、価格競争も激しくなっている。2014年のタイの自動車生産は国内市場の落ち込みから前年を下回る事が判明し、やがて市場も成熟し、頭打ちになってくるであろうとの見方の経済人も多いが、タイ政府は2013年8月にエコカー政策第二弾を発表、また、2016年のCO2排出基準の新物品税体系の導入により環境技術の全車種への適用を目指す事等自動車産業の高度化に向けた戦略を着々と講じているため、タイのASEANにおける「一極集中」は終焉をみるであろう事が予想できるが、ASEANのハブとしての拠点となる構図は続くのではないかと考えられる。
 そこで、注目されているのは「垂直分業型タイ+1」に加えて「水平分業型タイ+1」が進展してきて、相互補完体制を構築する事だ。それを構築したトヨタ自動車は、タイで小型商用車向けディーゼルエンジン、インドネシアではガソリンエンジン、フィリピンではトランスミッションを集中生産して相互補完を諮ることで、投資・生産の効率化とASEAN域内での現地化を進めた。
 また自動車部品メーカーではデンソーがタイでスターターとオルタネーター、インドネシアではコンプレッサーとスパークプラグ、マレーシアではECU(エンジンコントロールユニット)、フィリピンではメーターを集中生産し、相互補完関係を構築した。
 このようなトヨタ自動車等のアッセンブラーやデンソー等のようなサプライヤーの動き方により我々下請業の動き方も決まってくる。めっきやアルマイト等表面処理業者にとっては、部品の最終工程を担う仕事のため、発注先に流通費用や納期の短縮化、優遇税制を受けるために発注先工場の近いところに進出する事を求められ、リスクを抱え進出についていかないと現地企業に仕事を奪われ、進出すると技術を奪われるという事が繰り返されてきた。
 今回海外進出した(株)ヒキフネは、顧客の求めに応じタイに進出したが、タイに進出した事により新たな引き合いは着実に増え、4月に完成予定の新ラインを導入する事となった。それによって色々なめっき加工が可能となり、仕事の広がりを見せている。また、現地社員の定着や教育には多少の問題は残るが、家族的な経営を特徴とするヒキフネ型経営が現地社員に受けいられて、定着率も高いようだ。
 日系企業とローカル企業の仕事も住み分けがされており、ローカル企業と日系企業の差がどんどんなくなってきているとされるが、大きく分けると量産型で単価競争がある製品と、まだまだ技術力や信頼度が求められる製品の2種類に分かれ、仕事量としても日系企業にも沢山の仕事があるようだ。

オクノオーロメックス社

タイのめっき事情レポート(2)

2015.6.10

 10年ぶりにタイ・バンコックのスワンナブーム国際空港に降り立ってまず感じた事は、清潔感であった。
 前回とは比べ物にならない位、きれいに感じるのはトイレや床、エレベーター等細部がきれいになっており、駐車場まで行くと、外は相変わらず暑いのであるが、いやなにおいがしない。また、前に来た時は自動車がへこんでいたり汚れていたりしていたのが、汚れたり埃をかぶっている車が少ない事に気がついた。
 空港からホテルまではバンコック名物の大渋滞に巻き込まれたが、横をすり抜けるスクーターやバイクに乗っているカップルも前回の訪問の時とは違い、ファッショナブルな洋服を着て乗っていた。
 バイクタクシーも新しいバイクが多くあり、この10年間の経済成長が見て分かる光景だ。
 筆者の乗っている車の前はタイでは約半数を占めるといわれる1トンピックアップトラックの荷台をハードトップで覆った車である。通訳によると、段々とセダンが多くなってきているが、ピックアップトラックに屋根を付けた車にデコレーションをしたりして乗るのが流行っているとのことだが、現在のバンコク市内の交通網を支えているのは、近年整備されたバンコクスカイトレイン(BTS)と地下鉄だ。東京の山手線並みの混雑具合を見せているものの、これまで主流だった自家用車やバイクに比べ時間が正確で料金も安い公共交通に高い人気が集まっている。
 そのうちBTSについては、2030年の延伸計画が先日発表された。その計画では、バンコク市内からバンコク郊外のスワナプーミ空港、さらには複数の大型工業団地が立地するタイ東部までをBTSが結び付ける予定とされており、このうちバンコク市内から郊外のサムットプラカーン県までの区間については、2017年に先行して開通されるという。
 バンコク郊外やタイ東部の地方部では、古くから大型工業団地が建設され、これまでに1200社近くの日本企業が進出している。これは、タイ全体の進出企業数の約9割を占める。2013年以降の地方部の最低賃金の上昇や、2015年1月にはタイ投資委員会による投資優遇策からゾーン制が廃止されたこと等の影響によって、日本企業がタイ東部の地方に立地するメリットは失われつつあり、低コストを理由に地方を選択していた企業が都心部に近い郊外へと回帰していく趨勢にある。
 タイ国政府もバンコク市内以外のエリアを重視し、産業構造の転換および環境汚染の解決を進める意思を示しており、タイの工業省を中心に、工業団地による企業の集積という強みを生かしながら、環境配慮型産業の創出によってエリアの発展を牽引するようなエコインダストリアルタウン開発が検討されている。
 来るタイ・プラス1の経済成長、ASEAN経済統合、経済回廊の整備により隣国との間で人やモノの往来が一層拡大するなか、都心中心部から郊外へと経済圏が広がる流れは確実であろう。そうした変化を捉え、そこから生まれるビジネスチャンスをつかみ、拡大させていくことがタイに進出している日系企業の命題となるであろう事が鑑みる事が出来る。(2013年のタイ商務省データによれば、日系企業は登記ベースで7,739社がタイに進出している)
 日本総研の≪藤井英彦氏の視点≫によると本年度、タイの生産増が期待できるとの見解を次のように分析している。
(1)タイ経済に持ち直しの兆し。鉱工業生産は昨年9月を底に増勢回復。本年2月は前月比3.1%の大幅増。もっとも本年2月を除いてみれば昨年初来、一進一退。さらに出荷が昨年末から横這うなか、本年2月の生産増で在庫が大幅増。在庫は依然低水準ながら生産増が適正在庫を目指した動きであれば、さらなる生産増の余地小。今後をどのようにみるべきか。
(2)主要業種別に昨年10月~本年1月と対比して本年2月生産の増減寄与度をみると最大の増加は+0.6%の石油精製。次いで自動車+0.37%、衣類+0.29%、家具+0.28%。大幅減は通信機器や事務機器など一部にとどまるものの、大半の業種は総じて横這い。本年2月の生産増は特定業種が牽引。景気回復の拡がりは看取されず。
(3)最大の増加となった石油精製を内外別にみると輸出が牽引役。主要品目のジェット燃料とディーゼル油について内外別にみると、昨年半ば以降、国内販売量が緩やかに増加するなか、輸出が国内向けを大幅に上回って増加。インドネシアやベトナムなど、高成長を続ける周辺各国向け輸出増。本年2月、石油製品の在庫水準は昨年比▲16%、一昨年比▲7%。
(4)次いで、自動車や二輪車でも輸出が牽引(図表)。国内販売が横這うなか、輸出台数が増加。季調済年率で二輪車は完成車で本年1月34万台から2月47万台。ノックダウンは56万台から87万台。自動車は直近ボトムの昨年9月107万台から本年2月124万台で17万台増。同期間の生産台数は187万台から210万台で23万台増。輸出を上回る生産増。本年2月の在庫水準は昨年▲3%、一昨年比▲17%。排気量別にみると1,500cc未満が生産増の大半。新興国向けで二輪車や小型車が中心。今後、在庫積み増しの一巡は不可避ながら、周辺各国が底堅い成長を持続すると見込まれるなか、輸出主導による生産増で同国経済は持ち直しに向かう公算大。 と分析している。
 中小企業基盤整備機構の調査によると、製造業が全体の半分弱、1,879社(48.4%)を占め、特に金属製造・加工376社(9.7%)、輸送用機械330社(8.5%)、電気機器234社(6.0%)の比率が高く、製造業以外では、卸売907社(23.4%)、サービス業475社(12.2%)、運輸・倉庫業144社(3.7%)、建設業137社(3.5%)と続いており、日系企業の活動領域が広範にわたっている。
 こういった日系企業進出の流れの中で日系企業の進出がどうタイ側でどう受け止められているか、2つ目が2014年5月の政変を経てどうタイへ進出済みの日系企業がそのスタンスをもっているかを検討したいと思う。
 バンコクビズ紙で、「ここ2~3年で日系部品メーカーのタイ進出が加速し、タイの中小部品企業の操業に深刻な影響が出ている。特に自動車関係について顕著である。2015年1月~2月の受注は、昨年比で約4割も減少した。この状態が続くようなら、タイの中小企業は危機的状況に陥るだろう」とタイ工業省中小企業振興局の局長コメントを報じている。
 このことは2011年~2012年に実施された、ファーストバイカープログラムという自動車購入の際の税還付制度が終了し、生産量が低下したことにより、市場全体のパイが小さくなっているのも背景にあると思われる。
 また、タイ工業省ジャパンデスクの部長は、「タイ人と協力してもらうために、日本企業の誘致に努めたい。」とコメントしている。  タイ企業の自動車分野での受注が減っているとのコメントについてはタイ自動車部品メーカーの育成に携わっているが、Q(品質)C(コスト)D(納期)について日本企業品質に自力で追いついている企業は、まだあまり多くないと感じている。
 一部の企業からは試作品は良いが量産になると品質にばらつきがあるなどの声もあり、まだまだ表面処理業界においても日系企業の活躍する事が出来そうだと感じる。
 バンコク日本人商工会議所(JCC)が実施した2014年下期日系企業景気動向調査においては、今後の日本の対タイ投資全体について、「変わらない」が54%と最も多く、また「増大する」は28%、「減少する」は18%となっている。
 以上のことから、日本企業のスタンスは政変を経てもあまり変わっていないことと見受けられる。
 一方で大手部品メーカーの中には、「タイの部品メーカーのサプライチェーン集積は代えがたいものがあるが、政治状況を鑑み、ポートフォリオの中で考慮する可能性もある」と答えている。
 同じく東南アジアで自動車産業の集積が進みつつあるインドネシアと比べても、タイは格別な産業集積を誇っている。
 タイは2015年末に発足するアセアン経済共同体が目先に迫っていることから、近隣諸国との連帯を強化して、経済の建て直しをスタートしている。また、国内向けには格差社会に対しての批判を解消する手段として、BOI(投資奨励委員会)と共に国境地域に経済特区構想を打ち出すなど、積極的な姿勢が見受けられる。  また、2015年1月からのBOI(投資奨励委員会)の投資奨励の変更について、海外からの投資はこれまで同様、継続的に受け入れるが、高度な技術がある分野を特に受け入れる体制になっていることから、エコカーなどの分野でも追い風になると思われる。
 日系企業の活動については、タイ企業にとって日本企業は、取引が決まるまでは時間がかかるが、一度取引が始まると関係も長続きすると歓迎されている。日本から学ぶことも多く、特に新しいスタイルやモデルが次々と生まれてくることは、とても魅力的に感じているようである事から現地化をより一層進める体制を整えつつ、付加価値のある製品やサービス分野の投資が不可欠になりつつあるため、労働集約的な考えではなく、新たな技術やサービスを目指す取り組みも必要であると思う。  次回の《タイのメッキ事情レポートⅢ》では実際のローカル企業のインタビューを報告する。

タイのめっき事情レポート(3)

2015.8.10

 タイの経済は成熟期を迎えているとの情報がある中、相変わらず日系企業のタイに対する投資が盛んであるが、日系企業や欧米企業のタイのローカル企業に対する評価が高まって来ている。
 現地で取材した自動車部品関連の日系企業の調達担当者は、弊紙インタビューに「約8%の部品をローカル企業に発注しているが、まだまだ不安が多く、肝心なところは日系企業か欧米企業以外には発注できない」と答えているが、自動車部品メーカーの一部では、「ローカル企業製品であっても日本企業の設計した製品であれば使えるレベルになって来ており、近い将来はローカル企業の品質も格段に良くなる事が考えられる」と弊紙インタビューに答えている。  その事を表す事実としてめっき処理加工のローカル企業、MMCpo社の加工品は、バレルめっき処理での不良率は0コンマ00幾つ位のレベルにまで達している。

工場内

 工場の床がドライの環境で空調設備の整った清潔な工場の中(工場内の環境がとても良い)で、十数台もの大型自動ロボットが人の動きのような動きで大量なバレルめっきをする光景を目の当たりにすると、自動機による大量生産のすごさを感じ、コスト面では日系企業よりはるかに競争力があると感じられ、将来日本の大学や大学院に留学した勤勉な若い世代の技術者が日本の技術を手本に自らの技術を磨き、日系企業と同等の技術レベルに近づいていく事が想像できる。
 同社の若き研究員や検査技師は日本や米国の大学・大学院を卒業した精鋭が従事しており、研究室や検査室の全員が日系企業と同じように英語や日本語の論文を読み、日本や米国の大学で学んだ研究員が薬品の配合実験までも行っている。しかも工場内の製造機械や検査機器の多くが日本からの輸入品か欧米企業の製品である事に危機感さえ覚えてしまう。
 日本の学校で専門教育を受けたタイ人技術者(真面目で勤勉な若者)が、定年後にスカウトされた日本人の職人の指導の下経験を積み、日本の機械と薬品で製造するとどうなるであろうか?ほぼ日本企業と同等のレベルまで出来てしまう事になるのは明白である。
 タイの投資感覚においては、ASEAN6カ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ブルネイ)で 、2010年1月1日に物品のほとんどの関税が撤廃され、完全な自由貿易地域が実現した事から化粧品製造メーカーや日用品メーカーの激しい競争が起った前例があり、大量生産をしてランニングコストを抑え、技術力や価格競争力を持ち、企業間競争に勝つための投資をする事が現地ローカル企業の経営者の考え方のようだ。
 オクノ・オーロメックス社のプラキッリタノン社長はタイの多くの企業はコスト意識が高く、近年はコストダウンのためにベトナムに進出している企業も多くなって来ていると答えている。薬品業界はまだまだ日本企業には追い付いていけないようではあるが、タイ国内では欧米系企業や日系企業の競争があり、それぞれが顧客の確保のためにしのぎを削っている。
 プラスチック製品の製造工場であるタイ・フーバー社では化粧品のパッケージで使用するためにアルマイトのラインや蒸着めっきのラインを持っており、「最初は自社製品用に使用する考えだが、将来は他の業界の仕事を受けるようにしたい」と弊紙のインタビューに答えている。  また、近年はタイをインド進出のためのマザー工場とする日系企業や欧米企業が増加し、それ以外にも中国企業や韓国企業がタイ国内に進出してきているため、依然としてめっきやアルマイト等の表面処理加工や自動車部品はもちろん電気製品用めっきの需要が増加しており、近年にはプラスチックめっきや電子部品用めっき加工などの需要もある。
 “タイ・プラス1”が主流になりつつある東南アジアにおいて、本年にも始動しそうなTPPに加えマザー工場としての役割を担うタイは東南アジアのどこに位置するのであろうか?  最近、色々な企業が進出を考えているメキシコ等と共に、我が表面処理加工業界もグローバル化に対する判断が大切になってくる新たな時代に対して生き残りをかけた難しい舵取りを行わなければならないと考えさせられる調査旅行であった。
 終了